日米デジタル貿易協定

日米デジタル貿易協定

2019年11月6日の日経新聞に、デジタル協定国会審議へという記事があった。9月に行われた日米首脳会談で日米貿易協定とともに合意したデジタル貿易協定が国会で審議されるとのこと。

日米デジタル貿易協定は一言でいうと大手IT企業を保護する協定だ。今回は、この日米デジタル貿易協定とはどのようなものなのか、また、目的や問題点を分かりやすく解説していこう。

まずは、記事の内容を要約しておくと…

中国のように政府が情報を規制・管理している国では、現地の海外企業が情報開示に迫られている。

日本の企業からも企業秘密の流出を懸念しルール作りを求める声があがっていた。

これらを問題視する米国はデジタル・ルール作りを進めており、今回の日米デジタル貿易協定を足掛かりにして世界貿易機関(WTO)のルールに反映していきたい考え。

上記の要約だけをみると特に問題はなさそうな感じがするが、問題は協定の中身だ。内閣官房のサイトにデジタル貿易協定の概要がPDFでアップされているので興味があれば読んでもらいたい。デジタル貿易協定は5・6ページのみなので負担は少ないだろう。

『日米貿易協定、日米デジタル貿易協定の概要』(内閣官房)
https://www.cas.go.jp/jp/tpp/ffr/pdf/190925_TPP_gaiyou.pdf

概要の部分を読み進めると「いずれの締約国も~」で始まる項目ばかりで、確かにWTOのルールまで発展したときに「中国の自由勝手は許さないよ」といったメッセージになるように感じる。ただし、これは中国との協定ではなく、日米間の貿易協定であって、アメリカは中国も念頭に置いているが日本も例外ではないのだ。

では、具体的にどれほど一方的な協定か見ていこう。不平等条約を彷彿とさせる内容であることは明らかだ。

日本政府は自国民より米企業を保護するつもりか?

内閣官房のPDFには13項目の概要が記載されているが、中には「個人情報を保護しよう」とか「迷惑メールを排除しよう」「詐欺はやめよう」といった協定を結ぶまでもない当たり前な項目も含まれているので、ここでは重要と思える部分だけを紹介していく。中国との協定を見据えると、このような項目も入れておいた方が良いと考えたのだろうが、二国間の協定としては幼稚に見えてしまうのは私だけではないと思う。

まず、気になるのは次の項目だ。

SNS等の双方向コンピュータサービスについて、情報流通等に関連する損害の責任を決定するにあたって、提供者等を情報の発信主体として取り扱う措置を採用し、または維持してはならないこと等を規定する。

具体的に書けば分かりやすくなる半面、一般性が失われると実際のトラブルに対応しにくくなるから、こういった難しい書き方になってしまうのだ。これは仕方のないことと割り切って説明していこう。

上記の項目は、「飲食店の従業員が悪ふざけをしている様子をTwitterなどに投稿した場合、Twitter(FacebookやInstagramなどのSNS)は罪にならない」といっているのだ。バイトテロと呼ばれている行き過ぎたイタズラに対して、場を提供しているプラットフォームに罪はないと規定している。

もちろん、バイトテロは許されぬが、グレーな行為だとどうだろう。悪意のない行為だったとしても投稿者は保護されないことになる。EU圏内の国なら、このような協定は自国民の不利益となるため却下されるような内容だ。

日本政府も米政府も日本を見ていない協定

もう一つ、気になる項目を紹介しよう。

一方の締約国は、自国における輸入・販売等の条件として、ソフトウェアの
ソースコードやアルゴリズムの移転等を要求してはならない。但し、規制機関
や司法当局の措置については、例外がある。

「ソフト(アプリ)を輸入・販売する場合、そのプログラムを見せろと言ってはならない。ただし、政府や裁判所が求めた場合は例外的に対応することもありえる。」といっている。

中国のように他国の技術を積極的に取り入れて急速に発展してきた事実を鑑みると仕方のないことと思えるが、これを日本に要求する協定はどうかと思う。少なくとも私の知る日本人は、アメリカの技術を盗用して儲けようとするよりも、オリジナルなものを作り出しているように思える。

但し書きとして、政府や裁判所の判断によっては例外を認めると書かれているが、日本の企業が意味なくソースコードやアルゴリズムを要求することなどないし、やるとすれば中国側となるだろう。その中国に例外を認めると収拾がつかなくなる恐れがある。的外れな印象が拭えない。

WTOで国際的なルールを作って、中国の好き勝手な行動を制限したいといったアメリカの思惑は理解できるが、日米デジタル貿易協定には相応しくない項目もあり、国内で不本意なデメリットが発生しないか心配になる。

これらの協定から、米政府は日本など見ていないと考えるべきだろう。あくまで中国をけん制することが目的で、日本は都合の良い踏み台として捉えているのではないだろうか。ただし、日米両政府の思惑通りになるかは疑問がある。

アメリカのWTO脱退示唆

トランプ大統領はWTOに常々、不公平だと不満をもらしており、脱退もほのめかすようなツイートをしている。

補足として簡単にWTOについて話しておくと、世界貿易機関(WTO)は、世界の国々と自由な貿易を促進するために設立された組織で、貿易のルールを策定したり、紛争の解決などを担っている。164の国や地域が加盟しており、中国も加盟しているがルールを守っているとはいえず批判を浴びている。

そんなWTOに、アメリカはWTO改革「自由で公平で平等な貿易」を掲げている。中国の国営企業が国の後押しを背景に、自国の民間企業と競うのはフェアではないという主張だ。トランプ大統領は改革できないのであれば、WTOを脱退するというスタンスなので、このWTOに中国を従わせるようなデジタル貿易協定を組み込むことに無理があるのだ。

日経新聞では、WTOを使って中国をけん制する構えと報じているが、辞めようとしている国と、ルールを守らない国が加盟するWTOが正常に機能するとは思えない。日経新聞の記者は米国が.WTOを脱退しないという前提で書かれているのだろう。

米政府も同様にWTOを脱退しないという方針で書かれた協定なら良いのだが、脱退が濃厚という前提なら問題だ。米政府は中国をおとりにして、日本の一般ユーザーから米企業を守るための協定を提案していることになる。日本政府も一緒になって同調してしまってはさらに問題だ。

唯一の救いは例外が入ったこと

先の項目に「例外」が認められていることに注目したい。日本政府はこれまでも独占禁止法を適用して米大手IT企業から国民を守る方法を模索してきた。例外が認められれば、ソースコードやアルゴリズムの開示を求めることも可能だ。

問題が発覚すれば、損害賠償を求められなくても、改善くらいは求められる。弱腰ではあるものの、例外が認められていることの意義は意外に大きい。米大手IT企業を守るような協定であることに変わりはないし、もう少し、日本の一般ユーザーにとってメリットのある協定であって欲しい。

日本政府には米中に踊らされることなく、国民が安心してSNSの利便性を享受できる環境を整えてくれることを望んでいる。この日米デジタル貿易協定は、アメリカに譲り過ぎだよって、SNSを利用しているみんなに伝えたい。