スーパーコンピューター

次世代スパコン「ポスト京」は京の100倍高速化

2019年2月18日の日本経済新聞で、次世代の国産スーパーコンピューターの計画が動き出すという記事が掲載された。画期的な新薬や革新的な生産技術の開発につなげるとのこと。あなたはスパコンと聞くと何を思い浮かべるだろうか。蓮舫さんの「二位じゃダメなんでしょうか?」という質問が話題となったことがあるが、国産スパコンの歩みを振り返りながら今日はこのテーマで話していこう。

スーパーコンピューターとその役割

スーパーコンピューター、略して「スパコン」。世界のスパコンランキングというものがあり、性能トップ10がニュースで取り上げられることも多い。テレビのニュースでタンスのように大きなコンピューターが立ち並ぶ壮観な映像を見た方も多いことだろう。

タンスのようなものは「ラック」と呼ばれ、あの中に数百から数千の小さなコンピューターが入っている。それらを同時に作動させることで複数の計算を同時並行で処理していく仕組みがスパコンなのだ。特注のコンピューターもあるが、市販のコンピューターを大量に組み合わせて作るるケースもある。

有名な国産スパコンでは、海洋研究開発機構の「地球シュミレーター」(2002年・NEC製)がある。これは、当時、大きな社会問題となった地球温暖化や地殻変動など、主に地球の動きをコンピューター内に再現させ、その結果を学術研究に役立てようという目的で作られた。もちろん、コンピューターなのだから、地球のことに限らず、他の分野でも汎用的に利用されている。

記憶に新しいものでは理化学研究所の「京(けい)」(2012年・富士通製)が挙げられる。1秒間に1京回(京は兆の1,000倍)の計算を行えることから京と名付けられた。毛筆の美しい書体で「京」と書かれた筐体をテレビで見た方も多いだろう。あれは書道家の武田双雲さんが書かれたものだ。

現在のスパコンは米中が先行

当たり前のことだが、地球シュミレーターも京も機会だ。そのため、残念ながら寿命がある。両スパコンは共に、開発当時世界一の性能を誇り、日本の学術研究にとって大きな功績を残してくれた。しかし、スポーツの世界記録が塗り替えられるように、スパコンもやがて二位、三位と順位を落としていくこととなる。現在ではアメリカと中国のトップ争いとなっており、日本はスパコン世界一の座を譲ってしまっている。

ただし、スパコンランキングは一つではなく、Green500という省電力部門のランキングでは日本製が世界のランキング上位をほぼ独占しているのだ。これは日本のお家芸と言っていい。大量のエネルギーを消費して力業で世界一を目指す中国と異なり、日本は省エネのスパコンで実用的なモノ作りをしている。

あなたのパソコンが熱を発しているように、スパコンは大量の熱を発しており、故障を防ぐためにも冷やす必要があるのだが、ファンで空気を送って熱を逃がす方法は限界にきているのだ。家庭用やオフィスのパソコンであれば空冷で問題ないのだが、スパコンでは事情が異なる。クーラーも併用しないと冷やしきれなくなっているのだ。

Green500で世界をリードする日本のスパコンは、液体で冷やすことで空気よりも効率的に冷やすことが可能のだ。ただし、機械でできたコンピューターを液体で冷やすことは難しさが伴う。この点を克服し、かつ、速さも追及する技術が日本らしいではないか。

二位じゃダメなんです!

民主党政権時代、事業仕分けを行い、行政の無駄を削ぎ落すことが期待されていた。中でも蓮舫さんが発した「二位じゃダメなんでしょうか?」は社会に大きなインパクトを与えた。

スパコンランキンで世界一位を狙うと必然的に多くの税金を使ってしまうことになる。だから、蓮舫さんの言いたいことは分かる。実際に一位でも二位でも瞬間的な大差はない。しかしながら、二位を狙って計画したとしても完成時に二位である保証はないし、完成時には十位になっているかもしれないのだ。

一位のスパコンを持つ国と、十位のスパコンを持つ国の学術研究が、二年後や三年後にどれほどの差が生じてしまうだろうか。説明するまでもない。十年後にはもっと大きな差となることだろう。日本の若い才能に、不利な環境を覆してノーベル賞を狙えというのも酷な話しだ。せめて、世界と対等に渡り合える環境を用意すべきだ。少なくとも少子化の進む日本では、人海戦術のようなものは得策ではない。

AIとビッグデータ+人工データの可能性

囲碁や将棋、これらはもうAI(人工知能)が生身の人間を越えてしまっている。そして、藤井聡太棋士はAIから戦術を学んでいるという。もう、AIを作りだした我々が、AIから学ぶ時代になっているのだ。

また、ビッグデータと呼ばれる大量の情報がある。小さな小売店だと、一日で得られる顧客データは数十件から数百件程度だろう。しかし、Amazonや楽天であれば、小さな小売店の比ではない。そのデータを読み解くことで、確実性の高い予測が可能となる。身近な例を挙げると、「これまでのデータから、Aさんはこの商品を購入する確率が非常に高い」という結論を導き出せるようになるのだ。小売業を営んでいる人にとって、喉から手が出るほど有益な情報になるだろう。

ただ、それは生身の人間がひとつひとつ手作業で集計するには現実的ではない。“ビッグ”と呼ばれるほどに大量のデータであれば、コンピューターを活用すべきケースだろう。スパコンの存在意義はここにある。

そして今、「人工データ」と呼ばれる情報がある。AIの持つ学習・分析機能と、ビッグデータの持つ予測結果を融合したらどうなるだろう。これまでに人類が経験したことのない答えをシュミレーションできるようになるのだ。人工的に作り出す未来、それが人工データだ。

ポスト京に寄せらる期待

「数年後に世界はこうなる」と予め分かっていたらとてつもない利益を生み出すことになるだろう。利益だけではない。被害や損害を防ぎ、人の命や財産を守ってくれる可能性もあるのだ。次世代スパコンにはそんな夢がある。

冒頭で伝えた画期的な新薬や革新的な生産技術の開発につなげるとのことが次世代スパコン「ポスト京」に期待されている。iPS細胞で知られるノーベル賞受賞者の山中伸弥さんも事業仕分けによって苦労したという。仮に多くの税金が使われることになったとしても、我々が得るものも大きいではないか。二位狙いではなく、世界最高速で省エネの国産スパコンに革新的な新技術を期待しよう。

追記(「富岳」と命名)

2019年5月24日の記事に次世代スパコンの名称は「富岳(ふがく)」に決定したとのこと。5,000件を超す応募の中から、外部の有識者によって富岳と名付けられ、性能の高さを富士山になぞらえた。

富岳は理化学研究所と富士通の共同開発で、これは「京(けい)」と同じ開発陣営となる。計算性能は最大で京の1,000倍。新薬や新素材の開発や、地震・津波対策、宇宙進化の研究などに利用される見込みだ。1,100億円の国費が投じられるプロジェクトなだけに、大きな成果を期待している。