スマホが車の鍵になる

2019年9月29日の日経新聞に、国土交通省は10月中旬をメドに道路運送車両法を改正し、スマートフォンを自動車の鍵として使えるようにするとの記事があった。

コンビニの支払いも、通勤・通学の交通費も今やスマホ一つで済ますことができる。車の鍵さえスマホで代用できる時代にきていると思う一方で、セキュリティ面の不安や物理的な弱点を話していこう。

まずは、記事の内容を要約しておくと…

国土交通省は道路運送車両法に基づく保安基準を改正し、自動車の鍵の代わりにスマートフォンを使えるようにする。

現行の保安基準は、車とセットで設計・製造された専用の鍵でエンジンを始動すると定めているため、スマホでドアの解錠・施錠はできても実物の鍵がないと運転できない。

すでに欧米では、米テスラや独BMWなどが従来の鍵がなく、スマホで代替できる車の採用を始めている。

私はこの記事を見てはじめて、鍵がないとエンジンを始動できない法律があることを知った。スマホで様々なサービスを受けられる時代に、この保安基準はミスマッチだろう。

国土交通省のサイトを見ると、道路運送車両法に基づく保安基準が掲載されており、ざっと眺めてみたが73条に渡り細かく基準が示されていた。蛇足になるが普段、我々がワイパーを読んでいる装置は「窓ふき器」が正式名称のようだ。

時代のニーズに合わせた改正は望ましいことだが問題はないのだろうか。まず、頭に浮かぶのはセキュリティ面の心配だろう。

車両盗難の被害は減る可能性がある

最近の乗用車はスマートキーと呼ばれる鍵が採用され、鍵を持ったオーナーが車に近づくと自動で鍵を開けてくれるし、エンジンも始動することができる。仕組みはシンプルだ。鍵から固有の電波が出ており、車はその電波を受信して反応する。

ただし、便利なスマートキーだが電波を傍受されて車が盗まれる被害が相次いでいることを忘れてはならない。鍵が微弱な電波を発しているため、その電波を近距離で傍受されてしまうと複製されて解錠やエンジン始動に悪用されてしまう。

これに対し、スマホを用いたデジタルキーはどうだろうか。独Boschのデジタルキーを例に挙げると、車側から電波を出してオーナーのスマホを探知するとのこと。鍵の電波と異なりスマホは複製することが難しい。

スマホは個体ごとに識別番号が割り振られているため、車とスマホが暗号化通信を行えば、現行のスマートキーよりもセキュリティの面では優れている。結論を急ぐつもりはないが、理論上、盗難の被害は減るだろうと考えられる。

デジタルキーの統一規格

また、トヨタ自動車グループの東海理化がデジタルキーの配信事業を本格化させるとのニュースもあり、各社で様々なデジタルキーが開発されている。新聞でも紹介されていた独BMWはBMW Connectedというアプリにデジタルキーが含まれているそうだ。

そこで課題となるのは、デジタルキーが最低限備えておくべき機能を示した指針作りだろう。各社が独自にセキュリティも使い勝手も素晴らしいデジタルキーを開発できれば統一規格は必要ない。

しかしながら、セブンペイのようなケースもあるため、クリアしておくべき条件が明確になっていれば、各社が一から考えるよりもコストやセキュリティの面で有利になる。

現在は、Car Connectivity Consortium(CCC)がデジタルキーの標準化や仕様策定を進めており、先に挙げたトヨタやBMWをはじめ、多くの自動車メーカーがメンバーとなっている。スマホメーカーもAppleやSamsungがメンバーとなっており、双方の業界の橋渡し役になりそうだ。

デジタルキーの利便性と危険性

実際の利便性に目を向けると、デジタルキーの普及によってカーシェアリングが便利になると期待されている。車を借りる際に、実物の鍵を受け取ったり、返しに行ったりといった手間が不要になるからだ。

カーシェアリングのアプリをダウンロードすれば、自分のスマホが鍵になる。DVDの返却が面倒でネット配信に切り替えたユーザーも多いだろう。この現象がカーシェアリングでも起こると考えられる。だが、同時にいくつか懸念されることもあるのだ。

まず、デジタルキーを管理するサーバーの問題。登録したスマホの情報が漏洩してしまうようなことがあってはならないし、サーバーが攻撃を受けたりしてダウンすればサービスが受けられないだろう。

カーシェアリングに限ったことではないが、スマホの電池が切れたら解錠や施錠ができなくなることも考えられる。外出先でスマホが故障したら車に乗って帰ることはできないと考えるべきだ。

この数年はスマートエントリーが主流だが、数年後はデジタルキーが主流になっていくのかもしれない。だが、金属製の鍵は壊れにくいし電池切れの心配もない。しかし、スマホは壊れるし電池切れもある。この2点は自動車メーカーやスマホメーカーはどうすることもできないトラブルでもある。

金属製の鍵を壊すことは難しいが、スマホは落としただけで簡単に壊れてしまう精密機械ということを忘れてはならない。スマホが車の鍵になると考えるとワクワクする一方で、スマホには荷が重い機能だと思えてしまう。