プラットフォーマーと独禁法

プラットフォーマーと独禁法

2019年8月30日の日経新聞に、公正取引委員会がプラットフォーマーに対して独占禁止法を適用し、ユーザーを保護するための指針作りを進めているとの記事があった。

地味なテーマだが、我々の生活に直結することなので興味があれば読んで欲しい。ふだん、SNSやオンラインショッピングを利用しているなら他人事ではないだろう。

まずは、ざっくりと記事の内容を要約しておくと、

公正取引委員会は、IT企業(プラットフォーマー)がユーザーの個人情報を集める際に、不利益を与えないようにするための指針案を作成した。

指針案の趣旨は、プラットフォーマーがユーザーに対して強い立場にあるとし、従来は企業間に適用していた独占禁止法の「優越的地位の乱用」を個人にも適用するとのこと。

EUでは2018年5月より一般データ保護規則(GDPR)を運用していることに触れ、日本の法整備が遅れていることを指摘。独占禁止法を活用することで、遅れを取り戻す考えだと報じた。

公正取引委員会のサイトを調べてみたところ、新聞では割愛されてしまった具体的な案(PDFで7ページ)が書かれており、案に対する意見も一般に公募していた。日経の記事には4つの違反項目を挙げていたが、公取委のPDFには6つ書かれていた。

指針案を解説する前に、内容を理解するために必要な点をチェックしておこう。

プラットフォーマーとは

この数年、「プラットフォーマー」という言葉が誕生し、IT関連のニュースで目にするようになったが、「プラットフォーム」と「プラットフォーマー」の意味について確認しよう。

駅のホームもプラットフォームと呼ぶが、プラットフォーム(platform)には一段高くなっている場所といった意味があり、その場所を人が乗り降りするイメージだ。つまり、多くの人が利用するウェブサイトをプラットフォームと呼び、それを提供している企業をプラットフォーマーと呼んでいる。

一般的には、大手のIT企業を指す言葉として定着しており、具体的にはFacebookやTwitterなどのSNSや、Amazonや楽天などショッピングサイトを指す。GoogleやAppleもアプリを配信するストアなど様々なサービスを提供しているのでプラットフォーマー呼ばれている。

今回のテーマである公正取引委員会の指針案は、このプラットフォーマーが、ユーザーに不利益を与えないように個人情報の収集について規制をするというものだ。そのために独占禁止法を適用することになった。

だが、不思議だとは思わないだろうか。独占禁止法は名前の通り、市場を独占することを規制する法なのに、どうして個人情報の収集が独占禁止法の対象になるのだろうと。

公正取引委員会と独占禁止法

まず、公正取引委員会は、独占禁止法を運用するために設置された機関だ。だから、独占禁止法といったら、公正取引委員会もセットで話題にのぼる。公正取引委員会と独占禁止法はそういう関係だ。

その独占禁止法は、「公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすること」が目的となっている。冒頭でPDFの資料があったことを伝えたが、その中に、分かり易い説明があったので紹介しよう。

デジタル・プラットフォーマーはその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあるものである。

「デジタル・プラットフォーマー」とは、先に挙げたプラットフォームと同じ意味だ。

つまり、「個人情報の収集を適切に行わない企業がいると、真面目に収集をしているライバル企業が損をするので“公正”ではなくなってしまう。公正ではないなら自由な競争が阻害されてしまうため、独占禁止法が適用される」ということだ。

また、独占禁止法には「優越的地位の乱用」を規制する項目が含まれるため、強い立場にあるプラットフォーマーが、ユーザーに対して不当に個人情報の収集を行うことを禁止することができる。今回の指針案では、プラットフォーマーが「情報の質も量も上で、しかも交渉力にも差がある」と指摘している。

ここまでは、今回のテーマを読み解く上で必要となるキーワードを説明してきたが、ここからは実際の指針案を見ながら、何をどのように規制し、我々の生活とどのように結びつくか解説していこう。

プラットフォーマーが守るべきこと

今回、公取委が示した案には下記の点について、プラットフォーマーは守らなければいけませんと言っている。

  1. 利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること。
  2. 利用目的の達成に必要な範囲を超えて,消費者の意に反して個人情報を取得すること。
  3. 個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を取得すること。
  4. 自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対し、消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に、個人情報等の経済上の利益を提供させること。
  5. 利用目的の達成に必要な範囲を超えて,消費者の意に反して個人情報を利用する こと。
  6. 個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに,個人情報を利用す ること。

※ デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)公正取引委員会

上から順に解説していこう。

利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること

これは、プラットフォーマーがユーザーの個人情報を取得する際は、サイト内の分かりやすい位置に、分かりやすい言葉で利用目的を知らせないと、独占禁止法に抵触しますよ、ということだ。

電子メールで伝えても構わないとあったが、サイト内の分かりにくい位置に書いたり、分散させてあったり、難解な専門用語や曖昧な説明はNGとなる。つまり、立場の弱いユーザーが利用目的を認識できなければ、たとえ書かれてあったとしても“消費者に知らせずに個人情報を取得した“ことになる。

正直、「公取委さんの書いた案も分かりにくいですよ」と言いたくなるが止めておこう。意味に汎用性を持たせる意図もあるだろうし、私自身も他人の文章をとやかく言えるほどではない自覚もある。

利用目的の達成に必要な範囲を超えて,消費者の意に反して個人情報を取得すること

これは、ユーザーの同意なく、余計な個人情報を取得すると独占禁止法に抵触しますよ、ということ。例えば、ショッピングサイトで年齢や性別を入力させることが該当する。商品の購入には名前と住所、クレジットカード番号、確認用のメールアドレスがあれば用は足りる。

同意があれば年齢や性別などの個人情報を取得することは許されるが“本当は教えたくないけど、どうしてもこの商品が欲しいから仕方なく入力した”というケースではNGとなる。まさに、強い立場を利用して個人情報を取得したことになるからだ。

個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を取得すること

これは、セキュリティ対策をしっかりしないと個人情報を取得してはいけません。もし取得したら独占禁止法に抵触しますよ、ということだ。

当然のことだが、IDやパスワードを含めて個人情報が簡単に流出してしまっては困る。出来心で社員がデータを売ってしまうケースもあるだろうし、外部からセキュリティの穴を突かれるケースもあるだろう。どこまでが“必要かつ適切な措置”に当たるのか、プラットフォーマーに判断を委ねる表現で、この点は火種になりかねない。

自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対し、消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に、個人情報等の経済上の利益を提供させること

やや難解な文章で、後半になるほど分かりにくい。噛み砕いで説明すると、ユーザーに対して、「ウチのサービスを使い続けたかったら、個人情報とかウチが得するネタをもっとよこせ」という内容だ。

SNSなど、一度始めると他社のサービスに移りにくいケースもあるだろう。ファンが付いてくれたり、“いいね”が一杯たまってきたら使い続けたくなるだろう。こういったユーザーに対して、プラットフォーマーが強い立場を利用して追加情報を得る行為を規制するため、独占禁止法に抵触すると言っている。

利用目的の達成に必要な範囲を超えて,消費者の意に反して個人情報を利用すること

これは、“消費者の意に反して”の部分がポイントだ。プラットフォーマーが得た個人情報の二次利用を指しているのだろう。公取委のPDFには“ターゲティング広告“に利用した例を挙げている。

ターゲティング広告は、ユーザーが検索したキーワードや、閲覧した商品ページから、興味のありそうなサービスの広告を表示させることだが、これはクッキーと呼ばれるデータをブラウザに保存しておくことで提供される方法が一般的だ。

一部のスマホアプリではクッキーを使わずにターゲティング広告を表示できるようだが、プラットフォーマーが得た個人情報で、ターゲティング広告を表示することを禁止する方針のようだ。

ユーザーの同意があれば問題とならないともあったが、ユーザーの行動履歴は自動的にクッキーへ保存されるので、同意を得ているわけではないし、クッキーの切り方なんて普通のユーザーが知る由もない。まして、クッキーを切ることで不便にこともある。

私の個人的な意見ではあるが、ユーザーの興味がありそうな広告を表示することと、ユーザーの興味のない広告を表示することを比べたら、ターゲティング広告は悪ではないと思うのだ。私なら興味のある広告を表示してもらった方がいい。

ただ、行動履歴からターゲティング広告を表示されることを嫌がる人もいるだろう。例えば、財布が欲しいと思って検索したら、その後に財布の広告ばかり表示されるようになったという経験はないだろうか。これを気持ち悪いと感じることを否定するつもりはない。

この案は、「このようなターゲティング広告を規制したいけど、みんなはどう思う?」といった提案でもあるのだろう。

個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに,個人情報を利用すること

これは、上記の「個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を取得すること。」と内容が被っているため、一つにまとめてしまった方がプラットフォーマーにも、ユーザーにも親切だろう。みだりに条件を増やすことに何のメリットもない。

ずいぶんと長くなってしまったので、この辺りで今回の記事に関する解説を終えるが、我々の生活に深くかかわることが分かってもらえただろうか。ここまでインターネットが普及した社会ではプラットフォーマーが果たす役割は大きい。そして、我々もそれに頼った生活をしているのだ。

これからの10年は、プラットフォーマーとユーザーが互いにうまく付き合う方法を模索する時期に来ている。プラットフォーマーが強い立場であることは、今後も変わることはないが、我々も最低限の知識は蓄えておくべきだろう。